恋でも愛でも 理由なんて あとからでvv

 

   内緒のその後は…



  「こういう方向で来られるとは思わなかったなぁ。」


これはこれで十分どきりとしたし、
ビックリさせられはした今年のイースター騒動となり。
出バレほど ひどくはなかったけれど、すぐさま底が割れの、
アパート近くの電柱に登り、そこでカメラを回していた
撮影担当だったペトロも、
イエスのおいでおいでに招かれて合流してのこと。
微妙な機微が彼らにしか通じぬだろう
ある意味“内祝い”的な宴を開くことと相なって。
春キャベツと新じゃがのキッシュに、
菜の花色したふかふかオムレツ。
大豆ミートの唐揚げ、五目稲荷と、
チーズやスライストマト、
アボカドのディップにタルタルソース、
ハムにオリーブの実などなどを載せたカナッペ各種。
とろりんなめらかなプリンに、
ふっかふかの仕上がりもおめでたい、
桜色のシフォンケーキ、線蜜がけジェラート添えという、
どれもブッダが手を尽くした逸品ぞろいのお料理&スィーツと。
それだけはイエスが調理サイトと首っぴきで手掛けた
ブッダ調合特製スパイス入りテリーヌに、
びっくりした後の笑顔でこれもイエスが転変させた赤ワインとで、
それは朗らかにわいわいと、
お祝いの食事を囲んで楽しく過ごした午後となり。

 『それじゃあ、御馳走様でした。』

遅番のシフトがありますのでと、
まだ早い時間だったが帰ってしまった漁師兄弟を、
アパート下まで見送って。
はぁあと楽しかった余韻を思わす吐息つき、
六畳間に戻って来たイエスだったものの。
座った腰回りへ後ろ手に手をついて、
卓袱台の下へ投げ出すように延ばした脚を、
ややあって すりすりと擦り合わせ始める。
落ち着きがなくてのことじゃあなくて、
何かしらへ心許ない様子になっており。
使った食器や何やを 手際良く流し台へ下げていたブッダが、
台拭きを持ってやって来たのへ、
とうとう“ねえねえ…”という上目遣いをする始末。

 「やっぱり何か すうすうするよぉ。」

いきなり足元が覆われなくなったせいか、
やっぱりどうにも落ち着けないイエスであるらしく。
ブッダへの花粉症緩和策の盲点が、
春一番という強風が吹くと、
さりげない対処なぞ一緒に吹き飛ばされてしまうため、
それまで過保護にしていた分 落差が尚のこと大きいだろう只中に、
耐性の薄いままな身を 晒させることになりかねなんだようなもの。

 …ぬあんて ややこしい言いようをもってくるより
 もっとずんと判りやすいのが、

 「いきなりミニスカート履くと こんな気分なのかなぁ。」
 「なに言ってるかな、キミわ。//////」

即妙なんだか、極端なんだか、
何とも珍妙な言い回しをしつつ、
膝やら腿やら手のひらで擦って見せたりする。
まあ確かに、今日もまた空模様がすっきりしないせいか、
ちょっぴり気温も低い方。
それでなくとも やや打たれ弱いイエスなものだから、
痩躯なこともあって、
ちょっぴりという差異も寒い寒いと感じられてしまうのだろて。

 “途轍もない受難には耐え抜いた人だというのにね。”

しょうがないなぁと苦笑したブッダ様。
それでなくとも 愛しくも大切な人の難儀と来て、
厳しい態度を貫き通すのも なかなか難しいことなようであり。
とはいえ、これでまたコタツを引っ張り出していてはキリがない。

 「…えっとぉ。//////」

ちょっぴり踏ん切りが要ったものか、
“えいっ”と言う代わりみたいに うんとくっきり頷いて。
天板を拭っていた卓袱台へ手をついて立ち上がると、
対面へと向かい合ってまではいなかったが
それでも間隔は空けて座っていたイエスの傍らまでの数歩を運び、
ほとんどくっつくほどのお隣へ座り直す。

 「え?//////」

何なに・なにごと?
まさかお説教なの?と思った割に、
間近になった愛しいお人に、判りやすくもやや赤くなったイエスなのへ。
更に身を寄せ、手はお膝。
どこのちいママのご挨拶か……
あ・いやいや、イエス様にはそういう知識はないので、
何これ、なにごと?と、ますます赤くなっての戸惑っておれば、

 「こ、これなら少しは温かいでしょう?//////」

平静を装いつつ、だがだが
抑揚も微妙に怪しいし、何ともぎこちない口調にて、
そんな言いようをする如来様。
コタツは諦めてこれで我慢して下さいなと、
筋は曲げられない彼なりに、頑張って宥めたつもりだったようだけど、

 “うわぁ…ブッダったら もうもうもうvv”

まだまだ自分から甘えるのは苦手な釈迦牟尼様なのにね。
だからして、照れまくりになっちゃうのも無理はないと、
イエスの側からして思ったくらいの 大胆な所業であり。
シャツとカーディガン越しながら、
肩や二の腕の柔らかさが伝わってくるのや、
それも照れからだろう
腿の上へ置かれた手のひらが じわんと熱いこととかに、
何とも言えずドキドキするし。
そのくせ、

 「〜〜〜〜。///////」

こうまで間近いというに、
目線を合わせられないのだろうか、うつむきがちになったまま。
時々あうあうと、何処見たらいいのという戸惑いを乗っけた所作で
落ち着きなくそわそわするのもまた、
日頃の落ち着いた彼からは掛け離れた拙さが、
いっそ可憐で愛らしくて……愛惜しくって。

 「…ぶっだ。」

声を掛ければ、触れてるところがピクッと撥ねたが、
離れはせぬままなのは、決して我慢してではなさそうで。

 「  ………?////////」

こんなときにも正座している彼なので、
そんなお膝にこちらからも手を載せれば、

 「…っ。////」

途端にピククッと、先程よりも大きく肩が撥ねた。
そんな彼なのへ、ふふーと微笑いかけて見せ、

 「あのね?
  もうちょっと、そう足を崩してくれない?」

 「あ…うん。///////」

言われるまま、正座から横ざまに足を前へと延ばして、
自分と同じような座り方に合わせる彼なのへ。
そんな動作の隙を衝くように、
お背へ延ばされた腕がひょいと、まろやかな肩ごと彼を捕まえる。

 「あ…っ。///////」

そも、接する側はブッダからこそ くっついていたのだが、
それでも、抱き寄せられるというのは勝手が違うこと。
二の腕の一部だけという触れようだったのが、
一気に懐ろへまで引き込まれかかり、
いきなりのことに 羞恥心が増し、
総身ごとという勢いで かあっと熱くなったものの。
バランスが崩れて倒れ込みかけたのへは、

 「…あ、ごめんっ。」

そこまでは思慮が足りなかったものか、
反対側の腕が出て、ぽそんと受け止めてくれたのが

 “あ…。///////”

背中をくるむように延ばされた腕とあいまって、
横向きながらも双の腕にて抱きしめられた形となって。

 腕や手のひら、肩や背中や、
 触れているそこここ全てから、
 イエスがその温みと匂いでもって、
 自分を包み込んでくれており。

 “…あ。//////”

倒れ込み掛けたのを抱きとめてくれた腕に、
意外と筋肉ついてるんだと感じ入り。
それを言ったら胸元だって、
肋骨が浮いてるなんてとんでもない、
鎖骨から下、一緒に横になるときに頬をつける辺りは、
頼もしい骨格に適度な堅さの肉置きをした胸板が
ちゃんと備わっておいでだし。

 ああ、そうだったね

逞しいとは言えないまでも、
男らしくも頼もしい筋骨をそなえておいでの彼であり。
しかもしかも、

 「? ブッダ、どうしたの?」

どこか捻っちゃった? 乱暴にしてごめんねと、
こちらを覗き込みつつ案じてくれる表情は、
困っているの助けてーと飛び込んでくるときとは比べものにならないほど、
しっかとした自負をたたえていて、泰然と揺るぎなく。

 「ぶっだ? ………っ。////////」

どうしたのと訊きかけたのを封じるように、
ぎゅむとこちらから、腕を伸ばしてしがみつく。
その動作に添うように、
はさりとあふれて背中へ流れたのは、豊かなまでの深色の髪。
腕の下から背中へ回した手は、いつものかいがら骨へと届かせれば。

 「……うん。//////」

こちらからの“甘えていぃい?”という意が即座に通じたようで。
それこそ“よしきた”という呼吸で、
彼からもこちらの背中へその腕を回し直してくれるのが、
恥ずかしいとか まだ明るいうちだとか、
お堅いそんなこんなをあっさりと凌駕して

  ……ああ、なんて気持ちいいんだろう//////////

ブッダを難無く陶酔させる。
自分の柔らかな肉付きのそれとは違い、
ゴツゴツした感触の雄々しい腕によって、
やや強引にきゅうと拘束されるのさえ、
独占したいという心持ちの現れだからと判ってのこと、
震えが来るほどに嬉しくてたまらない。
こちらの頬が触れている首の、ちょっぴり強い肌も、
緊張からか興奮からか、こくりと息を飲むと生々しく動くところも好き。
胸元の深みから滲み出すオレンジの香りとそれから、
時々ほのかに汗の匂いもする、髪の匂いも実は好き。
視線を降ろせば、
シャツの襟ぐりから鎖骨の合わせ目が覗いているのが目に入る。

 “………………あ。///////”

腕へと僅かほど力を込めた拍子、
その片側がぐりと浮いて動いた躍動に、
自分の胸の奥でも 何かが くくんと躍った。
そこには何にもないはずが、
なのに…軟骨が無理から捩れたような、
それは妙に生々しく、ぬるい痛みをおびた感触でもあって。

 「…ブッダ?」

どうかしたの?と声がかかる。
抱き着いて来たそのまま顔を上げもせず、
あまりに何も言わないブッダなのが、
さすがに気になってしまったイエスなのだろう。
呼ばれたまま顔を上げれば、玻璃の双眸が優しく見つめてくれて。
んん?と小首を傾げたそのまま、
ふと悪戯っ気が起きたのか、
ついばむような小さいキスを頬へと落とし、
そのまま至近となった視線を搦めると、

 「あ…。///////」

玻璃色の瞳に見つめられた時点で、もはや意識は虜われてしまっており。
間近になることへの先触れ、肌からの放熱に取り込まれ、
触れる直前、ほうと吐き出された吐息の甘さに、
くらくらしながら焦がれておれば。
頼もしく、なのに嫋やかな感触が、
こちらの唇へと重なり、そのまま貪るように蹂躙を始める。
時に乱暴に強く、だが、
高圧的で強引というよりも、
もどかしげな拙さに惹かれてしまい。
気がつけば こちらまでもが もどかしくなっていて、
背中へ回していた手を“もっと”と強く握り込んでいる。

 ああ、どうしよう。

 私、この人が好き過ぎて、
 いつかどうにかなってしまうに違いない。

切れ長の目元も、線の細い鼻筋も、
長い髪も薄い頬も、お髭がちっとも雄々しくない繊細そうな口許も、
何処もかしこも好きでたまらぬ。
声も温みも、肌の堅さも、
じいと見つめると困ったように、でも切なそうに微笑う呼吸も。
皆みんな、好きで好きでたまらない。

 「……。/////////」

いつの間に口づけから解かれたものか、
熱に浮いた頬をその懐へと押し付けている自分であり。

 「ぶっだ?」
 「…あ、あのね。私、イエスにって用意したものがあって。」

これ以上見つめ合うと、何故だろうか泣き出しそうな予感があって。
それでと、思い出したこと、無理から引っ張り出していて。

 「復活へのお祝いになるかどうか、
  お誕生祝いだと思ってくれたらありがたいのだけど。」

イエスの懐ろへしなだれかかるような格好になっていた身を起こすよに、
腕を立てる格好でその身を引きはがしたブッダだったのへ、

 “…あ。”

それへとやや残念そうに、一瞬 息を引いたイエス様。
横手へ眸をやり何かへ手を伸ばすブッダだと気がつくと、

 「あ、これ?」

ますますと離れられてはたまらないとばかり、
Jr.の陰にいつの間にか突っ込まれてあった紙袋、
よいしょと身を延べ、腕も延べ、
何とか掴んで、ブッダへ差し出せば、

 「開けてみて?」

言いながら、自分もイエスと同じ目線になるつもりか、
その身を再びこちらの懐ろへと添わせてくれたので、
おおう これはvvvと ときめきつつ、
ハッピー・バースデイと綴られた金色のメッセージシールが貼られた、
堅いめの紙袋の口を開けば、

 「…あっvv」

中に入っていたのはTシャツで。
シャツそのものは、よくある白地の木綿のそれで。
ただ、その胸元には、
四角いフレームを切っての それは鮮やかな絵が描かれている。
天の側には藍色の夜空が広がっているが、
その真下には 茜やオレンジが下からじわじわと広がりつつある、
まさに夜明けのワンシーン。
同系色を繋ぎ合うよに徐々に差してゆくグラデーションではなくて、
藍色やウルトラマリンへ赤や茜を入り交ぜるという大胆さが、
なのに、自然の暁光の躍る様のようで、
それはそれは神秘的で美しいばかり。

 「アクリル絵の具で描いたから、滲まないし洗濯も出来るんだよ?」

がさごそと取り出した贈り物。
ブッダを取り込んだままの腕の中で広げたその絵は、
どうやらシッダールタせんせいの直筆らしく。
肉筆ならではの圧巻さにのまれたか、
声もなくの惚れ惚れと見入るイエスだったものの、

 「いえす?」

何だか奇抜すぎちゃった?
イエスは自然なもののほうが好きだったのかな?
奇を衒った前衛にこそしなかったけれど、
案外とそういう、あっさりしたイラストチックな方がよかったのかなと。
あまりに音なしの構えになってしまったイエスへ、
案じるようなお声を掛ければ、

 「…凄いなぁ。」

感に堪えたというような声を絞りだし、

 「こんな綺麗な空って、写真じゃなくとも描けるんだねぇ。」

 真っ暗なのに じわんって、
 負けじと陽の光の素が滲み出してくるところとか。

ああもう藍色になってるっていう夜空が迫ってて、
でもその手前には、また別の色が差してて。
濃い青だったところから引っ張り出された茜色の中へ、
まだ浅い光の色を撒き散らしてるお陽様もいて。

 「一番きれいだと思ったときの色の並びなんだもん、びっくりした。」

そうと言って、やっと見下ろしてくる彼は、
それはわくわくと瞳を輝かせてもいて。

 こんな綺麗なの、描いてくれてありがとうvv

間近になっていたブッダの額へ、
軽やかで優しいキスをしてくれてから、
でもでも急に頼りない声を上げ、

 「何か勿体なくて着られないよぉ。」
 「あ、それじゃあ何にもならないじゃない。」
 「でもぉ〜〜。//////」

ほんのついさっきまでの睦みの熱さもどこへやら、
子供同士のだだのこね合いのようなやりとりが始まってしまい、
窓の外では、どこかの垣根に潜り込む猫でもいたか、
ちりりという涼やかな鈴の音がかすかに届いた、春宵の一刻である。








  お題 4 『コイスルキモチ』



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  *卵料理が多かったのは
   経費で落とせるからでしょうか。(笑)

   それはともかく。
   ややふしだらなお二人ですいません。
   進むかに見せて、でもなかなか進まない、
   連休中の高速道路みたいなシリーズです、はい。
   何処まで行けばいいもんでしょうかねぇ。
   既に結構きわどいと思ってるんですが、まだまだ甘いのかなぁ?
   とりあえず大黒は越した方がいいのかなぁ。(何処の話や)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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